U君の結婚式(H11.9.25挙式)
3枚の縦長のステンドグラスは正面上方に組み込まれていた。
見たこともない高い天井からつるされた長い長いコードに連なった灯りと、グラスからの独特の木漏れ日が、神父のいる高台で新郎新婦を待ち受ける。
その奇妙な空間と光芒とが渦巻き、なおさら神聖さを強調するかのようだった。
結婚行進曲と起立した招待者は新郎を拍手で招き入れる。
初めてみるオールバックの髪とこわばった顔は、儀式に対峙した彼の決心を物語る。
遅れて新婦。新婦はなんだか平常心。新婦とは以前一度話しただけだが、芯の強さは平常心に変貌しているようだ。
ウェディングドレスの裾は長く短くなく、約1.5mくらい。後ろから左右に扇が崩れないようにしている。係りのおばさんは腰を曲げ、頭が床に着くのではないかとこちらがはらはらする。
賛美歌が終わった後、お決まりの宣誓。
新郎の早いがやっと出た文句が聞こえにくいだろうと気遣ったのか、新婦ははきはきした口調でなめらかに、ややゆっくりと宣誓。
指輪交換はよく見えない。
新婦側の子供が泣き始め、あわててお父さんが連れ出す。
ベールは思ったより小さく、キスは捻転角度はほとんどなく、二人が同じくらい近づく。
そのあと、あれこれと署名とかなにやらと壇上でやっている。
二人がバージンロードを歩いた後、出口に出ようとしたら、「関係者以外バージンロードを歩かないでください」という立て札が壁に張られているのを一瞥させられ、なにやら可笑しくなる。
新婦が投げた花束は、雑踏のなかでうちの女性職員のMさんが放射線上で全く動かずナイスキャッチ。隣の友人と顔を見合わせて二人とも口に手を持っていく。ちなみに40代の女性職員は人目をはばかり、一歩も動けず(^_^;)
黒塗りのロールスロイスはあったが、さすがに利用者のTさんが言っていたようなその後ろに空き缶の藤はなかった。
新郎と新婦はサンルーフから後ろ向きに体を出し立ち上がって、やっとふたりともにっこりと笑みを浮かべる。
近づこうとした私をよそに、ふたりはロールスロイスの後部座席に恥ずかしそうに寄り添うが、すぐに開きかけたガラス窓から手を振りながら差し出す。
ああ、披露宴へ行っちゃった。
と思いきや、Uターンした車が他の道から再び現れ少し離れたところで止まった。新郎の人柄か、こちらからは見えないのに黒いガラス窓の少し空いているところから手を振っている。私は手を振り返した。みえたかな?
かくて会場は披露宴へ移るのであった。
送迎バスは約2、30人の老若男女を吸い込んだ。
狭小なくねった下り道には三々五々の家々。かと思えば、木々の間から急にざわざわした車の波。
約5分でバスは披露宴会場のホテルの前に横付けされた。
立派な巨塔レベルホテル。
正面自動ドアからはU君の会場表示は分からない。どこかと思えば左奥に4階という表示が目に飛び込んだ。
「あれ、まだ10時だ」
誰かが喚声をあげた。
「どうしますか?」
円らな瞳の紅弟は、首を突き出すように聞いた。
「お茶でものむかい」
4人の集団は2階の白い壁の喫茶に行こうとした。
「こっちもいいですよ」
中年の女性店員が薄暗い入り口を指さした。
その言葉になされるままボックス席に4人は座り、アイスコーヒー3つとホット一つを頼んだ。
「前金でお願いします」
4人は目が点になった。
エレベーターの表示が4になってほとんどの人がゆっくりと降りた。
左折したところに多くの人が集まっていた。
祝儀を渡す列は長く、その後ろではポラロイドカメラが会場席順表をもらい終わった人を一人ずつ照らしていた。下にメッセージを書くようだ。
会場では正面の一番前のテーブルの後ろ側だった。席が良すぎて恐縮してしまう。
時間はもうすぐ12時になろうとしていた。
披露宴は結婚行進曲ではない曲で幕ぎられた。
重層な扉があけられ、漆黒の闇にリトゥルライトと外気が駆け抜ける。
新郎は純白風の和服?、新婦は期待通り和服に角隠し。ウェディングドレスも可愛らしかったが、角隠しにくりくりした眼も似合っている。
新郎には過ぎる新婦かな?……(*^_^*)
男性群は多かれ少なかれ思ったはずだ。
新郎もいい男だけど……(^_^;)
仲人の挨拶は、誇張のないストレートでいいものだった。人によると、
「新郎は〜を優秀な成績で…」
などと言いがちだが、そういったものはなく素直な新郎新婦を代弁するようだった。
F病院事務長が祝辞を述べた後、わがS施設長の祝辞だ。
何を隠そう新郎と私は競い合う朝寝坊で、私の車と彼の自転車はよく遭ってしまう(*_*)
施設長の挨拶に新郎の遅刻の話がでたとき、私が座ったテーブルの群では緊迫した場面であるにもかかわらず、笑いをこらえきれなかった。
次からどんな出勤時間になるのか彼のタイムカードを見るのが楽しみだ(早いと直接見れないので)。
わけの分からない曲を歌い踊りながら、上半身裸の人が混じった3人の野郎がビールをぐいのみしつつ登場した。
一同びっくりすると同時に爆笑だった。
新郎は以前の高知洪水災害で復旧活動に一週間ほど出ていたことがある。そのとき知り合って仲良くなった人たちらしい(?)
やがて新郎新婦を取り囲んだリーダーはおもむろに大きな紙を取り出した。そこの文字をやがて大きな声で真面目に読み上げる。
「女性運転免許証」
一同の表情は凍りついた後、再び盛り上がる。
「むやみに乗り回さないこと
人には貸さないこと
……………… 」
「でも、時々貸してね」
新郎は薄笑いを浮かべながら、賞状を受け取った。
するとまた、同じように踊りながらビールを飲みながら去っていったのであった。
そのほか踊りなどの催しも続いた。
私は知らなかったが、あいテレビの日曜版に出て、街角インタビューをすると隣席の人から聞いた「らくおばさん」とかいう男の人が司会の一人であった。
彼は途中まで通常のスーツで司会をしていたが突如いなくなり、白髪のかつらと買い物かご、そしてエプロンまでつけて、再登場した。
会場のみんなは、テレビをよく見ているらしく、おばさん?の言葉に大きくわいた。私の目には最後の仕上げとばかりに笑いを振りまき、仕事の都合という現実を置いて、再び会場を後にした。
…らくおばさん?…
テレビを見ていない私にとってはただの兄ちゃんだった。
デカ・プリオのときもそうだった。
…こいつ誰だ?エキストラの兄ちゃんにしては長いこといろんなコマーシャルでひっぱるじゃないか?…
ちゃんとした俳優だと分かるまでには時間がかかった。
いまでも第一印象のためただの兄ちゃんにしか思えない。
らくおばさんもきっとそうなりそうだ!
おそらく話が前後しているのだろうと思う。正確に書くのが目的ではなく、感想を書くのが目的だからだ。
ひとつこの結婚披露宴にはほかのと違った大きな点があった。
ウェディングケーキが非常に小さいのだ。小さいと言っても虫眼鏡が要るという意味ではなく、大家族が本当に買うケーキより少し大きな程度のものである。
人数の関係で配ることは逡巡したのだと思うが、10人くらいなら間違いなく配っていると思う。
「僕が結婚するときは不経済なお色直しなんかしない」と5年前に言っていた新郎も、さすがにその点とキャンドルサービスは通常の結婚披露宴通りだった。
新郎新婦の相手方の両親への花束贈呈は、ちょっと面白かった。
花束贈呈後、新郎は懐から手紙を取り出し朗読した。新郎らしい真面目なものだった。その後新郎の父も出席者への挨拶として手紙を朗読した。
そのあとが面白かったのだ。
新郎の母が手紙も何も無しで手慣れた様子で話し出したのである。
新郎の母は、K町でもあれこれと役員をしているようでいつも忙しい。
そんなこともあって聴衆の前での演説は苦にならないようだった。
つぎの三つのことを話してくれた。
1.自分が今日まで暮らしてこれたのも旦那と息子の我慢のたまものであること。
2.夢の1つめは、今日かなったこと。
3.夢の2つめは、今日おばあさんが座ってる席に自分が座ること。
言い足りないことを聞く側に想像させることで補うようないい挨拶だった。
披露宴はお開きとなった。
僕は自分の写真の下に
「落ちた幸せ拾っときました」
と添えて式場を後にした。
ちなみに、「落ちましたよ」は新郎のオリジナルである。
新郎新婦は4日後ギリシャに旅立った。
U君、お土産いらないよ(^^;)←誰も何も言ってない言ってない
おしまい