タイムカプセル

 テレビに写る殺人事件時効も面白くないので、ちょっと書き込みをしよう。
 高校3年のことは、なぜかすっぽり抜け落ちてほとんど覚えていないが、21世紀のワールドカップの年になったら、タイムカプセルをあけることになっていた。
 高校の卒業間際に新築校舎のそばにクラスのみんなで埋めた。なにを埋めたかは忘れてしまった。とにかく、なにかを入れたのだ。
 開封の約束の2002年5月21日午前10時には、私は仕事をしていた。忘れたわけではなかったが、20年も経っていたので疎遠になっていて行かなかった。今なら、官僚、刑事、検事、弁護士、法医学研究者、大学助教授、主婦、パート、失業者、行方不明者など、なんでもクラス仲間で構成できるはずだ。
 何か入れたのなら私のものについて誰かが電話でもくれればよいのに、音沙汰がないところをみると、私の記憶間違いで何も入れていなかったのかもしれない。
 私の高校は進学校だったけれど、タイムカプセルの話はすぐにまとまったように記憶している。クラスのリーダーがみんなに同意を求めている姿だけは、今でもまぶたに焼き付いている。クラスの仲間も、私語することもなく、うなずいていた。
 タイムカプセルはいやに大きかったような気がする。まぁ、入れるものの種類、数にもよったのだろう。それ以上思い出せないのが歯がゆい。
 当時、クラス全員で卒業前に、お別れ会を繁華街で開いた。盛り上がって、駄目なのだがほとんどの人がお酒も飲んでしまった。あのあと、どうしたんだろう。酔った後、学校に行ったような気がする。さらに、時間も経っているので、記憶の糸がたぐれない。やはり、歯がゆい。
 と思っていたら、電話が鳴った。
「高校の同級生の田中だけど…」クラスリーダーだった。
「ああ、もしかして、タイムカプセルの…」私は、間髪入れずに言った。
「片づいたよ、タイムカプセルの件」
 私はその瞬間、リーダーが当時みんなの前で言っていたことを思い出した。
「みんなの将来のため、今このことを言うわけにはいかない。タイムカプセルという札を立てて埋めておけば、日付までは絶対誰も開けないはずだ。20年後の2002年5月21日にこのクラスからは、検事や刑事や法医学研究者が出ているはずだ。時効のそのとき何とかしよう。俺たちは、クラスの鈴木を酔った勢いとはいえ、集団で殴って殺してしまったんだから」
 みんなは、頷くしかなかった。

この話は期待を裏切りますが、フィクションです


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