謎の電気製品「テレビ」

 僕が物心ついたころ、一般家庭テレビはモノクロが主流だった。
 テレビではいろんな人達がしゃべったり動いたりする。それらは当然テレビが創った現実とは無関係の虚像だと信じて疑わなかった。小さなテレビに本当の人間が入ったりすることはできないからだ。電波とか磁気なんて観念はなかったのだ。
 後ろの細い隙間から小さな身体が恐る恐るのぞき込む。よく見えない。
 テレビのスイッチをひねってみた。永い永い沈黙の後、ブラウン管の表面に人影が現れ始める。
「テレビのやつ、人の準備に時間がかかったな!」
 また、後ろの隙間から恐る恐るのぞき込む。チカチカと光が何カ所も灯っている。
「?」
 それが真空管だと分かるのは、テレビが故障したときだった。電気屋さんが後ろのカバーをはずしたのだ。
「うわっ、すごい」
 今のような集積回路がない時代、ものすごい量の回路が張り巡らされ、空間はほとんどなかった。今のテレビは、集積回路のおかげで、ものすごく簡単に見えるが。
 テレビに出演する人を初めて実際に見たとき、不可思議な感動にとらわれたのを覚えている。
「電波ってすごいな」
 「声」「姿」は実現された。三次元空間でさえ3Dで実現されようとしている。
 あとは、「匂い」と「味」だろう。
 そんなの無理無理、と思っている人もいるだろうが、何らかの形で他のデジタルに変換させてから電波に乗せ家庭に届いたとき、逆に「匂い」にしてやればよいはずだ。デジタル信号によって「匂い」を作り出す器具があればよいのだ。
 50年後生きている人は、この考えが正しいのか是非見届けて欲しい。

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