本当のプラス思考とは、絶望の底で光を見た人間の全身での驚きである。
そしてそこへ達するには、マイナス思考の極限まで降りていくことしか出発点はない。
私たちはいまたしかに地獄に生きている。
しかし私たちは死んで地獄に堕ちるのではない。人はすべて地獄に生まれてくるのである。
鳥は歌い花は咲く夢のパラダイスに、鳴物入りで祝福されて誕生するのではない。
しかし、その地獄のなかで、私たちはときとして思いがけない小さな歓びや、友情や、見知らぬ人の善意や、奇跡のような愛に出会うことがある。
勇気が体にあふれ、希望や夢に世界が輝いて見えるときもある。
人として生まれてよかった、と心から感謝するような瞬間さえある。
皆とともにわらいころげるときもある。
その一瞬を極楽というのだ。
極楽はあの世にあるものでもなく、天国や西方浄土にあるのでもない。
この世の地獄のただなかにこそあるのだ。
極楽とは地獄というこの世の闇のなかにキラキラ光りながら漂う小さな泡のようなものなのかもしれない。人が死んだのちに往く最後の場所では決してない。
「地獄は一定」
そう覚悟してしまえば、思いがけない明るい気持ちが生まれてくるときもあるはずだ。
それまでのたうちまわって苦しんでいた自分が、滑稽に、子供っぽく思えてくるばあいもあるだろう。