錯綜する記憶


 僕から少し離れて、怒っている男の人がいる。しかし、何を言っているのか何度思い出そうとしてもわからない。
 その瞬間、怒っていた男の人の行動がコマ送りで、逆回転する。
 家から飛び出した2歳の僕は、道路に並んでいる10台近くの自転車のひとつをひっかけて、すべてを将棋倒しにしてさっきの男の人の足に当ててしまう。幼いので、ごめんなさい、なんて言葉はしらないが、悪いことをしたということはわかっている。
 あとずさりする僕に、男の人がまた怒り出す。
 記憶の糸がそこまできたとき、男の人が怒っている事の次第を理解した。しかし、何かが違うような気がする。
 怒っている男の人の行動が再びコマ送りで、逆回転する。
 また先ほどの記憶が回り始める。
 家から飛び出した2歳の僕は、道路に並んでいる10台近くの自転車のひとつをひっかけて、すべてを将棋倒しにしてさっきの男の人の足に当ててしまう。幼いので、ごめんなさい、なんて言葉はしらないが、悪いことをしたということはわかっている。
 記憶に急に救急車が飛び込んでくる。
 さっきの怒っている男の人の顔から血が噴き出し、走ってきた車にはねられてしまう。
 何度思い出しても同じだ。
 僕はこっそり陰に隠れる。
 サイレンの音の中で、誰かの声がしている。
「風にあおられた自転車に押されてかわいそうに!」

この作品は、著者の記憶に基づいて着色したものです。

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