大江健三郎

 5、6年前初めて入った居酒屋の小上がりから玄関口を一瞥したとき、古ぼけた一枚の色紙に気づいた。はっきりいって汚い字だ。どこの小学生かと思ったとき、最後の名前が大江健三郎となっているのが目に入った。
 きっとここの主人が知り合いか何かなのだろう。そういえば僕の高校の先輩で、高校の機関誌が当時のクラス写真を載せていたのを思い出した。オ−ルバックでスレンダーで不良がかかっている。とても当時から文学をしていたようには見えなかった。
 いじめられて転校してきたと告白している彼の直後の写真だろう。
 東大新聞の「奇妙な仕事」は印象的だ。内容はアルバイトで、犬を殺す情景を描き出したものだ。この処女作は、よくよく考えてみると、医大で人間の死体をホルマリン漬けにする当時のアルバイトを描いた、「死者の奢り」の伏線となっているのだろう。
 彼がノ−ベル賞を受賞しストックホルムで英語で講演したとき、一度も原稿から目を離さなかったとニュースで報道されたとき、僕は改めて同じ人間であることに不思議な安堵感を感じた。
 そして、いまでは彼の息子光さんの音楽を楽しんでいる。
                      H11.08.11
            
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