長刀(なぎなた)部の少女
H11.11.24

 E大学の理学部に所属するある少女がいた。彼女は九州出身で中型バイクで中四国を行き来するほどの活発な少女だった。
 私が初めて彼女に会ったのは、8年ほど前の病院である。私に回ってきた処方箋には「Lt biceps feedback」と書かれていた。彼女は腕神経叢麻痺だったのだ。バイクで転倒して、脊髄から何本かの末梢神経が引き抜かれ肩関節と肘関節のほとんどの機能を失っていた。
 乳房の非対称は、筋肉緊張に左右の不釣り合いがあることを証明していた。
 彼女はとにかく明るい子だった。いや、演じていたのかも知れないが。
 彼女の上腕二頭筋を支配する神経は死滅していたので、肋間神経という呼吸に関与する神経をのばして付着させられた。私にできるのは上腕二頭筋に電極をつけ、筋肉で電気強度を拾い出し、本人に肘を動かすときの力の入れ方を巻き返し教えることだけだった。
 彼女の研究は魚の性転換についてであった。私はそのときまで知らなかったが、ある種の魚は成長過程でメス、オス、その間を行き来するんだそうだ。
 その後肩関節の腱移行術も行われ、前にあるものならとれるぐらいまで回復した。
 動物園に就職したいという彼女を、私は消極的に引き留めた。体力的に無理だし、他にも彼女の性格を生かせる仕事があると確信したからである。
 私の計算では、今頃たぶん可愛い子供と暮らしているはずだ。

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