清原は巨人との5年契約の4年目である。
彼の悲劇の一つめは、パリーグののびのびした状況に慣れてしまったことだ。セリーグとくに巨人では、一挙手一投足が賞賛・揶揄の対象となる。彼にはその落差が大きすぎたようだ。しかし、彼自身は、不調の原因の要素の多くが肉体だと思っているのだ。これは始末が悪い。シアトルでの肉体改造は全くの無駄なのである。逆効果で肉離れの癖がついてしまった。
悲劇の二つめは、彼はもともと打率が低いバッターであることをみんな理解していないこと。西武の1年目でこそ3割をクリアしたが、その後は佐々木、秋山らとのクリーンナップとともに、2割5分前後の打率を行き来していた。それでも、誰も文句を言う者はおらず、のびのびと野球をしていた。打率2割5分前後は、彼の精一杯の実力なのだ。
桑田と一緒のPL学園の高校野球時代、当時破竹の勢いの水野や畠山の池田高校を完膚無きまでに打ちのめした印象がみんなには焼き付いている。ホームランの数々の印象が劇的すぎた。
悲劇の三つめは、西武が彼のFA宣言を止めようとしてして行った年俸の破格のつり上げだ。彼は、もともと阪神か巨人に行きたかったからだ。しかし、この年俸のつり上げは、かえって金銭的な裏付けのある巨人への気持ちを固めてしまったようだ。
悲劇の四つめは、巨人に来て以来彼のプライドがずたずたになってしまったことだ。スポーツ選手が、ふとももの肉離れが直るのに何週間もかかり、いまだに何カ月も前の肉離れが再発したというのは本当だろうか。2軍へ行かされる口実ではないのかと疑いたくなってしまう。
世間の非難を含めた彼の精神的動揺は、バットを握る両手を堅く握らせている。バットに限らず棒を初めから堅く握った状態からある点を打つのは、身体を傾かせたり、脇を開けたり閉めたりする方法しか物理的に困難である。肩の力を抜けというのは、こういうことである。
このままだと彼は来シーズンでユニフォームを脱ぐことになる。でも清原がやりたいようにやればいじゃないか。そこまでは世間も文句は言わない。彼の人生の独立領域である。