「光と影」を読むと、ちょっしとたことや契機で、全く人生が変わってしまう2人のことが書かれている。以前ブレイクタイムで、渡辺淳一について言及したときの分類では「伝記もの」に所属する話である。
 日本最後の内乱の西南戦争で、右腕を銃で撃たれた小武大尉と寺内大尉。くしくも二人とも粉砕骨折をおこしており、症状も同様だった。
 当時の医学では、上腕切断は避けられなかった。佐藤軍医は、二人の腕を切断することにした。順番はカルテがたまたまおかれていた順番で決められた。どうせ、ふたりとも同じ手術をするのだから。
 まずはカルテが上にあった小武大尉。つぎは、寺内大尉である。
 しかし、佐藤軍医は急に寺内大尉のときは、腕を残す手技を試してみたくなるのである。本には「寺内君には悪いが、実験台になってもらおう」という台詞がかかれている。おなじような症状の者が並んだから、比較検討したくなったのだと私は思う。
 小武は切断手技だからすぐに治癒したが、退役となり、偕行社という軍人を支援する外郭団体に一生留まった。
 寺内は化膿に長い間苦しむが、動かぬとはいえ右腕が残ったがゆえに幹部軍人として残ることができ、運も味方に大出世をして桂内閣の陸軍大臣となり偕行社を支配し、大隈内閣のあとを受けて、内閣総理大臣にまで駆け登る。
 小武を苦しめたのは、二人とも陸軍幹部養成所の同期ですべての面で小武がまさっていたという自負、そして偉くなった寺内の小武へのいたわりであった。
 運命のいたずらがカルテの順番だったと知った小武は、最後に気が狂ってしまう。
 このような話ほど極端でないにしても、私たちには運命が待ち受けていて、どうにも避けられないことがある。しかし、前を見て生きなければならないことをこの小説は教えてくれる。私の推薦図書である。

 
     ブレイクタイムヘ          H11.9.5