15年くらい前、理学療法学科の学生だったとき、学外の喫茶店でよく出くわす女医がいた。その女医は決まって同じテーブルで、窓に背中を向けて座っていた。どんなに昼休み早く行っても、来る日は必ず先に座っていた。
なぜ医師だと分かったかというと、白衣の胸ポケットに放射線被爆量を計測するプレートと名札があるからだ。
彼女には、外見的特徴があった。髪で片目と頬を隠していたのだ。乱れているのではなく、恣意的にそうしているようなのだ。
気味悪がった学生たちは、あまりその喫茶店にこなくなったが、私はそのおかげでゆっくりと昼食を楽しめるようになった。
噂によると、髪を垂らしているのはブラックジャックのように顔に大きな「あざ」があるからで、職場はE大学の病理学研究室の主任研究員だと聞いた。本当かどうか知らないが、喫茶店がつぶれたのをきっかけに女医は風のように消えてしまった。
むろんその後、E大学に行っても一度も見かけることはない。