左小指の屈伸のみで操作できる電動車椅子
自作端末機と、某アテトーゼ型脳性麻痺患者との5年間
理学療法士・水田秋敏

                          
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<これは平成11年6月17日、身体障害者療護施設研修会全国大会で発表されたレジメをまとめたものです>

T.はじめに
 一般的な電動車椅子の操作方法は、スティックを手掌全体で握りしめる方式である。
  最近では、呼吸・音声・まばたきなどによって操作するものが工夫されてきている。このような操作方法は片山によって表にされ、理論上の対処方法はなされている。しかし、ひとつの特定の入力のみ(以下、一入力方式とする)で電源と進行方向の全てを操作する形態のものでは、方向転換に時間が少しかかりすぎる(米田、中邑らにより開発)。
  そこで私は、一入力方式を使用すべきレベルのアテトーゼ型重度脳性麻痺者の残存機能を使って、通常の電動車椅子に近いスムーズな動きを実現することはできないかと考え、ユニークなタイプの端末機を作製してみた。そして5年前からその端末機を使って経過観察をしてきたが、左第5指(以下、小指とする)のみでの操作を実現できたと結論づけたので報告する。

U.対象者
 脳性麻痺患者45歳(アテトーゼ型と痙直型の混合型)
 知能正常、他動的関節可動域はほぼ正常、日常生活は全面介助である。全体的に筋緊張が高く、肢位によって全身性屈曲パターン・全身性伸展パターンが強い。アテトーゼ特有の頚や上下肢の不随意運動がみられる。随意的に動かせるのは、主に顔の筋肉と左小指である。左小指の粗大筋力は屈伸とも4(軽い抵抗に抗して動かせる)だが、他の手指とともに握りしめたまま伸ばせなくなることが時折ある。   

V.自作端末機と使用方法
 本来コントロールボックスに入っている可変抵抗器2つと8本の電気コードを取り出して、自作端末機(3カ所)に接続した。構想及び作製期間は平成5年7月から翌年6月までの約1年間で、その後、安全対策の修正を随時加えていった。
 
装着法は、バケットシート上座位において、左上肢を背中方向に伸ばしたまま固定する。そして、端末機の中に手を固定し、小指に指輪状のもの(以下指輪とする)をはめることによって、小指の屈伸運動を操作源とする。小指の屈伸程度と、車椅子の進行方向の間には無論関連がある。

W.取り組みの経緯と結果
 平成6年6月から、この端末機を本症例へ適用した。
 対象者は産まれてから自分の意志で移動したことがなく、ニーズの中に自力移動の獲得があったので、大変精力的な訓練が可能であった。
  操作方法を覚えていない当初1週間は、後輪を浮かせた状態で練習し、その後、近監視状態で運動場にて練習した。実際の移動を始めたための恐怖感のためか、約2ヶ月後の8月までは緊張によって小指が曲がったままになり、右にばかり進む日がつづいた(その後の安全対策により、このときは電源が切れるようにした)。それも9月には落ちつき、近監視ながら施設内の廊下での移動が可能となった。
  監視無しのスムーズな施設内移動が可能となったのは、端末機を使い始めてから8ヶ月後の平成7年2月である。その後、施設の敷地内での単独移動が許可され、現在午前9時から午後3時まで電動車椅子に乗るに至っている。
  なお、事故については平成9年7月、指輪につながるワイヤーが切れたため施設の敷地内の道路の溝に脱輪したが、これに対する安全対策はすでに追加修正している。以下が、おもな安全対策である。

(安全対策について)
(1)緊張で小指が握ったままになった→電源が切れる(時間設定可)
(2)指輪と端末機の間のワイヤーが切れた→電源が切れる
(3)バッテリー残量によるバックスピードの変化→調整つまみによる対応
(4)端末機の固定バンドがはずれた→電源が切れる

X.考察
  平成5年6年から構想して、平成6年6月から使用してきた自作端末機は、頚の静止ができないアテトーゼ型脳性麻痺患者の残存機能である左小指を使ってのスムーズな駆動を可能とし、安全性を含めて機能的には一応の完成をみたと考える。ただ、
重量・外観・皮膚圧迫などの難点があるかもしれないので、この点に今後の課題が残されたと考える。
  また、この自作端末機はあくまで本対象者の残存機能に合わせたものであって、他の者にそのまま当てはめることはできない。それは、本対象者の手に端末機装着部のサイズを合わせていることと、(運動機能の)残存部分が異なるからである。逆に言えば、
その人の残存部分に合わせたものを作ってあげれば、基本的な構造が同じものでも通用すると考える。
 
 Y.まとめ
1.アテトーゼ運動があり、頚を静止しておけない重度脳性麻痺患者に対して電動車椅子の自作端末機を作製した。
2.8ヶ月後、スムーズな操作が可能となった。
3.5年間の経過観察によって、自作端末機の安全性が確認されたと考える。
4.重量・外観・皮膚圧迫などの課題がある。
5.他の脳性麻痺患者への製作上の示唆を示した端末機であると考える。

 □参 考 文 献         

1)米田郁夫・他:重度四肢麻痺1入力電動車椅子の実用化,第2回リハ工学カンファレンス講演論文集,249−252,1987
2)鈴木実:電動車椅子,PTジャーナル27,578−582,1992
3)荻島秀男:電動車椅子,装具・自肋具・車椅子 第2版,223−231,1986

4)中邑賢能・他:ポケット・コンピューターを利用した1入力・制御方式電動車椅子の開発,リハビリテーション・エンジニアリングvol.6,43−50,1991

5)中邑賢能・他:重度肢体不自由者1接点コントロール車椅子と訓練用ソフトウェアの開発,香川大学研究報告第T部75号,35−44.1989


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